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第六章:雛人形は誰のため――陽希五歳の視点
「凄いなあ」
花瓶に活けたまだ咲きかけの桃の花の青臭い匂いが仄かに漂う畳の部屋に、目も覚めるような鮮やかな緋毛氈の上に数段に分けて並べられた雛人形。
和装束の人形のみならず模造の植木や牛車や箪笥なども置かれているので、古い日本のお屋敷のドールハウスじみた感じもした。
天井からは赤い紐で繋げられた御殿鞠や金魚、ヒヨコを模した色とりどりの飾り雛が吊るされていた。
ベビーベットの赤ちゃんをあやす飾りのおもちゃみたいだけど、こちらの方がずっと色鮮やかで豪華だ。
「お店の飾りみたい」
むしろ、お店のディスプレイ以上だ。
近所のスーパーで売られていたのは男雛と女雛の二体だけか、せいぜい三人官女のいる二段セットだったから。
「ママのお雛様をお祖母ちゃんちから持ってきたんだって」
栗色の緩い天然パーマをハーフアップにして垂らしたミオちゃんは小さな木造りのオルゴールの螺子を回す。
「そうなんだ」
金属音が途中のメロディから新たに奏で始めたのは幼稚園でも繰り返し歌った「うれしいひなまつり」だ。
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