第二章:七夕の二人――清海《きよみ》の視点

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「今日は七夕だね」  彼女はふと思い出した風に話題を変える。 「そうだね」  天の川で分け隔てられた夫婦が一晩だけは会うことを許された日だ。  彼らの短い逢瀬に託つけて地上の人間が自分の願いを表す日でもある。 「せっかくうちの母が笹飾りくれたのに美生子がむしっちゃって」  彼女は砂場で遊んでいる二人の一歳児を笑って見入る。  ピンクのワンピースを纏った美生子ちゃんも、水色の半袖半ズボンを着た陽希も、まるでどちらも我が子であるかのように。  何と温かな眼差しだろう。  しかし、こちらの心には墨を落としたように暗いものが広がっていくのだ。
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