第六章:雛人形は誰のため――陽希五歳の視点

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 ミオちゃんももう「男の子」はやめたのかな?  相変わらず青の電車デザインのトレーナーにデニムのズボンを履いているけれど、秋から自分も通い出したバレエ教室では自分を「わたし」と言うし、髪型も教室の他の女の子たちがよく結っているスタイルだ。  それに、教室では同じ組のリカちゃんや他の女の子たちと楽しそうにしている。  やっぱり、ミオちゃんは女の子だから、男の自分といるより、同じ女の子たちといた方が楽しいのだろうか。  ぼくはミオちゃんと一緒にいたいからバレエ教室に行っているのに。 ――バレエなんて高いし、習い事は本当にこれだけだからね。 ――少しでも嫌だとか面倒だとか言ったらすぐ辞めるから。  苦い顔で突き放すように言って聞かせる母親の姿も蘇ってきて胸の内に陰が射してくる。  ミオちゃんはバレエの他に英語も習っていて、男の子っぽいとはいえ新しい服をいつも着て、こんなに立派な雛人形も飾ってもらえる。  自分は今日のオレンジのセーターも再従兄弟の雅希くんや近所の年上の男の子たちのお下がりだし、五月人形だってうちにはないからゴールデンウィークに雅希くんの家に見に行って一緒にお祝いした。 ――これは皆の五月人形だから。  母親に似てもう少し穏やかな顔をした貴海(たかみ)伯母さんは柏餅を振る舞いながらそう言ってくれたが、あの鎧兜を着て剣を構えた凛々しい武者人形が一つ上の再従兄弟に買い与えられたものであって自分のものではないのは知っている。
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