第六章:雛人形は誰のため――陽希五歳の視点

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「お雛様、嫌い」  二人の間を流れるオルゴールの旋律が少し緩やかになってきたところでポツリとミオちゃんが呟いた。 「何で?」  こんなに綺麗なお人形や飾りなのに。  自分の家で自分のものとして見られるお祝いなのに。  自分が女の子なら飛び上がって喜ぶだろうし、友達に自慢して回るかもしれない。 「五月人形は男の人形一人だけなのに、お雛様は必ず男雛と女雛が一緒なんだよね」  ミオちゃんはどこか寂しげな円らな瞳を金屏風を背に仲良く並んだ二体の内裏雛に注いだ。  藍色の装束が男雛、茜色の装束が女雛。  自分たちとは逆だと思うと、少しだけ可笑(おか)しくなる。 「女の子なら必ずお嫁に行かないとダメなのかなあ」  次第にノロノロと途絶え勝ちになる「うれしいひなまつり」が流れる中、ほんのり薄桃色の肌をしたハーフアップの横顔が俯く。  金属音で途切れ途切れに奏でられると、この歌は奥に潜めていた悲しさが浮かび上がって響く気がした。 「それは……」
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