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「ミオ、落としたよ」
陽希の声に振り向くと、筒上に丸めた図工で描いた絵の画用紙をこちらに差し出していた。
手提げのバッグからいつの間にか落としていたらしい。
「ああ」
"長橋美生子"
画用紙の裏に鉛筆で自ら記した名前が妙に浮き上がって見えた。
おれの名前、何で今時"子"まで付けた、いかにも女の子って字面なんだろう。
せめて"美生"とか男女のどちらでも通用する命名にしてくれれば良かったのに。
「ありがとう、ハル」
家に帰るまで落とさないように気を付けよう。
青い手提げの底に潰すようにして押し込む。
「それ、せっかく入選して貼り出された絵なんだから大事に持ってきなよ」
陽希は切れ長い目を細めて告げた。
ハルはそうすると特に優しい顔に見えると改めて思う。
「ああ、そうだったね」
バレエダンサーのカップルが一緒に踊る絵だ。
男性側は前にテレビで見て自分もこうなりたいと憧れたロシアのソリスト、女性側はリカちゃんや何となく気になる女の子たちの面影を組み合わせて描いた。
――これは長橋さん?
――私はこんなに可愛くないです。
絵の女性側を指差して微笑む先生に自分がそう答えたことを若芽の匂いを含みつつまだ春に温まり切らない三月の風に吹かれながら思い出す。
「バレエ、もうすぐ発表会だね」
柔らかな陽射しを受けた陽希の顔は蒼白い肌が内側から光を放つように輝いて見えた。
「うん」
取り敢えず、いじめられていたハルに笑顔が戻って良かったのだと思おう。
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