第八章:王子様に憧れて――陽希九歳の視点

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第八章:王子様に憧れて――陽希九歳の視点

 これは正に王子様だ。  バレエ教室に新たに入ったロシア人姉弟。  十六歳のお姉さんのターシャもすらりとした長身に暗褐色の髪に緑色の目をした外国の女優じみた美人(白人にはよくあることだが、美少女と形容するには日本人の感覚では既に雰囲気が大人過ぎる)だが、十歳の弟のサーシャはプラチナブロンドの髪に水色の瞳を持つ、絵本に出てくる王子様のような姿をしていた。 「ターシャ」「サーシャ」とニックネームだと男女の区別も付かない。  しかし、本名だとターシャは「タチャーナ」、サーシャは「アレクサンドル」だそうで、そうなると名前まで何だか王子様じみている。  何より驚かされたのは姉弟が踊り始めてからだ。  頭の小さい、しかし、手足は周囲よりすらりと長く伸びた二人が動き出すと、その場所だけが光を放つように際立って見えるのだ。  特に弟のサーシャは指先まで隙がなく、眺めていると、彼の動きこそが本当のバレエであり、他の子はもちろん先生までが拙い真似事のように思えてくる。 ――こいつは凄い。  他の女の子たちがこの新たに現れたプリンスに見入る様子をいささか面白くない気持ちで確かめつつ美生子に目をやった。 ……ああ、やっぱり。  栗色の髪を纏め上げた幼馴染みは白桃じみた頬をより濃いピンクに染めて、外国の女優じみた姉のターシャを目で追っている。  そして、自分の視線には全く気付く気配もなかった。
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