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「それにサーシャだったら、ターシャさんとずっと一緒にいられるよね」
美生子の薄桃色の頬が今度はより濃いピンクに染まる。
「まあ、姉弟だからね」
言葉の上では流しつつ、常に自分の中に潜んでいて胸を痛ませる疑いがまた頭をもたげた。
ミオはやっぱりリカちゃんやターシャさんのような同性だけを好きになるのだろうか。
世間には男性を好きになる男性、女性を好きになる女性がいることを小学生の自分も既に知っている。
だが、ミオが、今、自分のすぐ隣を歩いている幼馴染がそうであって欲しくはなかった。
「でも、姉弟なら、例えばターシャさんが結婚したら離れちゃうよ」
自分たちは本当の姉弟でないから結婚できる。
そう思いながら、隣の相手を見やると、まるでいきなり頭から氷水でも掛けられたように固まった面持ちをしていた。
やっぱり、言わなければ良かった。傍らで眺めるこちらにも後悔が襲ってくる。
「そうだね」
美生子はひきつった笑いを浮かべて声だけはどうということもない調子で続けた。
「あんなに素敵な人だから彼氏くらいもういるだろうし」
言い放った水色のコートの肩が目に見えて落ちる。
何でそんなにターシャさんの将来の結婚やまだいるかどうかも分からない恋人の話にそんなに凹むのだ。
大体、綺麗でバレエが巧いといったってまだ良く知りもしない相手なのに。
こんなの、テレビに出てくるアイドルに憧れて騒ぐのと大差ないじゃないか。
そうは言い出せないまま美生子のハーフアップの横顔をまた見やると、水色のコートの肩越しに白地に赤い斑入りの椿が咲いているのが目に焼き付いた。
ついさっき通り過ぎた家の庭には紅色の椿が咲いていた。
あちらの植え込みの椿は真っ白だ。
それなのに、この椿の花は乙女椿みたいな中間の淡いピンクにもならず、赤と白が互いに混ざり合うことなく主張している。
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