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「あの花、変わった模様だけど、綺麗だよね」
不意に美生子がひきつった笑いのまま、円らな瞳をこちらに向けた。
「ああ」
思わずギクリとして続ける。
「でも、何か模様がハデハデで自然じゃない気がする」
完全に一色の花と比べると、あの斑模様の花は元から自然に咲いていた種ではなく、突然変異か人が観賞用に作ったかで現れた種に思えた。
「あれは造花じゃなくて、自然に咲いてる花だよ?」
レッスン後に束髪は解いてもなお上部はかっつりハーフアップに結った緩い天然パーマの髪を揺らしながら、美生子は苦笑いする。
つと、そのカールした栗色の髪が水色のコートの肩に掛かる辺りからどこか鼻にツンと来る甘い芳香がした。
これはミオの匂いだろうか。
それともあの斑の椿の香りだろうか。
人工なのか天然なのか分からないまま漂い去っていく。
「そうだね」
これ以上、相手を落ち込ませたくないので笑顔で頷いて付け加えた。
「あれも綺麗だとは思うよ」
弱い自分を優しいと言ってくれたのは他ならぬミオなのだ。
すっかり日が長くなってまだ明るい春の夕方前の道を二人で歩調を合わせて帰っていく。
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