第十章:欠けたもの、得たもの――陽希十歳の視点

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 ゴールデンウィークや夏休みに雅希君の家に遊びに行って、時にはこんな風に一緒に泊まり掛けの旅行もする。  貴海伯母さん(正確には伯母さんではなく母親の従姉だが、うちではそう呼んでいる)や雅希君たちは笑顔で迎えてくれる。今まできつく叱られたことなどはない。  しかし、そこに甘えると、お母さんは帰った後に必ず怒るのだ。 ――伯母さんのうちで出されたお菓子をあんまりバクバク食べないで。普段うちで食べさせてないみたいで恥ずかしい。 ――伯母さんやお母さんたちが夕飯の用意をしている時に手伝いもせずにゲームしてるんじゃない。そういうのを気が利かないって言うの。  自分はいつも出された分のお菓子しか食べたことはないし、それ以上をねだったこともない。それに雅希君はゲームしていても怒られないのだ。 ――せっかく遊びに行って楽しんでるんだから、そんなに怒らなくてもいいじゃないの。  お祖父ちゃんお祖母ちゃんがそう取りなしても、お母さんはまるで自分を連れてよその家を訪ねることそのものが恥であるかのように忌々しい顔つきを変えない。  胸に影が差してくるのを覚えながら声は努めて穏やかにして付け加えた。 「詩乃(しの)ちゃんも一緒だしね」  貴海伯母さんには去年の暮れに新たに女の子が生まれた。 「詩乃が生まれてから家でも外でもミルクだオムツだ、俺は待たされてばっかり」  自分が持っていない新しい服も、ゲームも、弟妹も手に入れている雅希君はまた不満を口にする。
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