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ザブンと頭からプールに潜り込む。
ゴーグルをしていない視野は水色のクレヨンで塗り潰したようになった。
――ハルは弱いんじゃない。優しいんだ。
一年余り前にそう言ってくれた美生子の顔と声、その時に纏っていた淡い水色のコートが浮かんだ。
いいや、俺はやっぱり弱いんだ。
見ていてイラつくような子供だから、お母さんも冷たいんだ。
――美生子ちゃんは活発だから。
――雅希君みたいなハキハキした男の子ならいいのに。
母親の苦々しい顔と吐き捨てる風な声が蘇る。俺が積極的に何か楽しもうとすると物凄く馬鹿なことをしたみたいに叱り付けるのはお母さんじゃないか。
ザバッと再び頭を水から出すと、今度は濡れた頭に触れる空気の方がひんやりと冷たかった。
浮き輪に掴まった足が爪先しか着かない。
どうやら水遊びスペースでも深い所に来てしまったようだ。
「ハル?」
聞き覚えのある声が飛んできた。
「サーシャ!」
ここで会うとは思わなかった相手だ。
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