第十章:欠けたもの、得たもの――陽希十歳の視点

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***** 「君も来てたんだね」  プールサイドを近付いてくるサーシャがミルクのように滑らかに白く、まだ子供の背丈に比して頭は小さく手足はすらりと長い体に着けているのは、小学校のプールで使うような黒い海パンだ。  不思議なもので、このプラチナブロンドの王子様が身に付けていると、そんな地味で垢抜けない水着が素朴な装いに見えてくる。  塩素の匂いに混じってふわりと甘い洋菓子じみた香りが届く。  これはこのロシアの男の子が近くにいるといつも仄かに漂う匂いだ。 「こんにちは」  後ろに立つ姉のターシャもやはり白くてすらりとした体に瞳と同じエメラルド色の水着を纏っていて、何だか等身大のバービー人形じみて見えた。 「お友達かい?」  泳ぐコースから上がってきたらしい伯父さんが穏やかに笑って近付いてくる。  雅希君もその背後から外国人姉弟を物珍しげに見詰めた。 「バレエ教室で一緒なんです」  能力は段違いだが、同じ教室に通っていることに変わりはない。
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