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第十一章:小さくても女――美生子十一歳の視点
「いやあ、この時期は蒸しますねえ」
「盆地だから夕方辺りが一番ムシムシするんですよね」
お父さんや伯父さんたちが茹で上がったばかりの枝豆を摘みつつビールを呷り始めた。
お盆の親戚の集まりは苦手だ。
特に、今年のようなお祖父ちゃんの初盆で普段の盆暮れでも顔を合わせない、率直に言って、正確な繋がりも分からない人も集まる時は。
だからこんな風におじさんたちの煙草の臭いが薄まる部屋の隅で小さくなって文庫本をめくる。
小六の自分にはやや手こずる大人向け翻訳の「嵐が丘」はちょうど佳境を迎えたところだ。
“ヒースクリフはあたしです!”
紙面では荒野に向かってキャサリンが叫んでいる。
旧家の令嬢のキャサリンと孤児のヒースクリフ。異性であるこの二人の関係は「恋人」という括りで一般には説明されるし、実際そう読むのが正しいと思える場面も多い。
けれど、この下りを見ると、「魂の双子」というか、愛情も憎悪も見えないチューブで共有している関係に思えるのだ。
「美生子」
台所からのお母さんの声で現実に引き戻される。
「ちょっと手伝って」
言わなくても分かるでしょ、とその顔は告げている。
「はい」
文庫本に栞を挟んで立ち上がる。
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