第十一章:小さくても女――美生子十一歳の視点

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*****  青臭い湯気の漂う、居間より格段に蒸し暑い台所ではお祖母ちゃんが鍋をかき回す一方で伯母さんたちが皿に料理を取り分けたりお茶を淹れたりしていた。 「女の子なら言われなくても手伝いなさい。気が利かないんだから」  お母さんは我が子を叱るよりむしろお祖母ちゃんや伯母さんたちに謝って聞かせる調子だ。  自分が本当に男ならこんなことは言われないだろう。  まあ、お祖母ちゃんたちにだけ働かせて知らんぷりする仲間になるのは確かに図々しくて嫌な感じだから手伝うけど。  不意に鍋を掻き回していたお祖母ちゃんが振り返った。 「ミオちゃんもゆっくり覚えればいいんだよ」  白い湯気にうっすら覆われた笑顔の穏やかさはそのままだが、お祖父ちゃんのお葬式から半年余りで何だか痩せて体が一回り縮んだ気がする。 「私も家庭科やってるからちょっとは出来るよ」  お祖父ちゃんが生きている時も台所でご飯やおやつのとうもろこしを茹でていたのはお祖母ちゃんだった。  そのお祖父ちゃんももう亡くなってこんなに年老いた体になったのに、実の息子であるお父さんたちはどうしてお祖母ちゃんを相変わらず台所に立たせて自分たちは酒を飲んでいるのだろう。  居間からはテレビの音とおじさんたちの笑う声が響いてきた。
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