第十一章:小さくても女――美生子十一歳の視点

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***** 「もっと天ぷら食べなさい」  お母さんが取り箸で空になった取皿にささみのてんぷらを移す。 「もういいよ」  腹六分くらいだから後は麦茶をガブ飲みすれば事足りる。 「鶏肉の天ぷらは好きでしょ?」  お母さんの言葉に離れた向こうに座っているお祖母ちゃんも寂しげな目を向けた。 「うん」  これはお祖母ちゃんがわざわざ揚げてくれたものだからやっぱり食べよう。  醤油を着けた天ぷらを齧ると少し冷めてはいるが香ばしい味が口の中に広がる。  小さな頃からこの家に来る度にお祖母ちゃんは自分の好きな唐揚げや鶏の天ぷらを出してくれた。それにこの料理自体は嫌いになった訳じゃないし。  麦茶と一緒に飲み下すと二つの味が入り混じって妙にイガイガした感じが喉の奥に残った。
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