第十一章:小さくても女――美生子十一歳の視点

4/8
前へ
/319ページ
次へ
「最近、私、凄く太っちゃって」  身長と体重の数値的な兼ね合いからすればまだ標準の範疇だが、問題はそこではない。  買ってもらったばかりのスポーツブラの胸が思い出したように締め付けてくるのを感じる。  同時に隣の母親の向日葵柄のTシャツの胸が妙に飛び出て見えた。  お母さんが大きいから自分も大きくなるかもしれない。  この前、取り込んだ洗濯物を畳むのを手伝った時にそれとなく確かめた母親のブラジャーのサイズは“E75”即ち“Eカップ”だ。  自分もそうなるのだろうかと思うと、すぐ隣に座す胸も尻も豊かな母親の体つきが急に(いと)わしいものに見えてくる。  そういえば、最近、体操着のハーフパンツも少しきつくなってきた。背丈からすればまだ余裕があるはずなのに。 「バレエ教室でも一番太ってるくらいだから」  本当はもっと太めの人もいるけれどそう言っておく。  お母さんもお祖母ちゃんも伯母さんたちもそれぞれ苦笑いした。  多分、皆、俺が年頃の女の子らしく痩せたがっていると思ってるんだ。そこに一抹の安堵と後ろめたさを感じる。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加