第二章:七夕の二人――清海《きよみ》の視点

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 起動したパソコンのトップでまず目に入ったのは黄色いファイルのアイコンだった。  名前には“files”とだけあるのだが、その無機質なネーミングに却って引っ掛かるものを感じた。  クリックして出てきた画像の群れに背筋が凍り付いた。  そこにあられもない姿で映っている女性は一人だけではなかった。  大半は当時二十八歳だった私より少し若いくらいだが、顔や体型からしてまだ中高生ではないかと思われる少女も混ざっていた。  行為中を隠し撮りしたものと思われる動画のファイルもあった。 “ほら、もっとよく見せて”  確実に夫のものと分かる声を耳にした瞬間、胃の中が激しく逆流するような感覚を覚えて寝室を飛び出した。  トイレで全部吐き出して胃の中が空っぽになっても、まだ吐き足りないような感じが消えなかった。  トイレの壁にもたれてうずくまっていると、両の頬を生暖かい、しかし流れた後はひやりと冷たい滴が伝い落ちていく。  自分はどうやら泣いているらしい。
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