第十一章:小さくても女――美生子十一歳の視点

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「バレエやってるんだ?」  すぐ向かいに座った伯父さん――正確な関係性は分からないがこういう法事では顔を合わせる人だ――がビールの入ったグラスを手にしたまま驚いた風な声を出す。  あ、余計なこと言っちゃった。  この伯父さんは悪い人というほどではないがどうも苦手だ。 「将来はバレリーナにでもなりたいのかい」  バレリーナ、とわざと取り澄ました風に口にする時に微かな揶揄の笑いが赤く脂ぎった顔を過ぎった。  周囲の大人たちも苦笑してこちらを窺っている気配がする。 「いや、私、教室でも全然上手な方じゃないし、厳しい世界でバレエダンサーになりたいとかいうのはないんで」  どうしても“バレリーナ”という言い方は避けてしまう。  かといって“バレリーノ”にもなれない(そもそもこのおじさんに“バレリーノ”と言っても多分馴染みのない言葉だろう)。 “バレエダンサー”なら男も女も含まれるから安全だ。
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