第十二章:赤ちゃんの産める体――陽希十二歳の視点

2/7
前へ
/319ページ
次へ
「はい、指先までしっかり伸ばして」  ピアノの演奏曲が流れる中、バーに捕まって一斉に同じポーズを取っていると、自分がまだ群れの中にいる安心感といつそこから抜け落ちるのかという不安が入り交じる。  小学六年生ともなるとバレエ教室でももうベテランの部類だ。  中学生以上ともなると教室でも巧くてかつ本人にも続けたい意思の強くある人に限定されてくる。  ふと、少し離れた場所でバーに捕まってポーズを取るサーシャの一際手足の長い後ろ姿が目に入った。  こちらがわざわざ探す努力をしなくてもこの王子様はまるで石ころの中のダイヤモンドのように集団の中から浮かび上がるのだ。  同じ動作をしているはずなのにサーシャと自分たちとでは段違いの差がある。  自分は決してバレエを嫌いではないけれど教室でも真ん中どころだし、何が何でもダンサーになりたいとかいうほどの思い入れもない。  眼差しは自ずとすぐ前の、まだ真新しい群青のレオタードを着た美生子の背中に戻る。  一足先に中学生になったミオが続けているのだから、俺もやっぱり続けようか。  少なくとも練習着を新調したばかりなのだから相手もまだ辞めることはなさそうだし。  濃い群青のレオタードの張り付いた体は後ろから見ても夏休み前よりもっと胸や尻が丸く突き出てきていて、痩せぎすで平たい体つきの多いバレエ教室の他の女の子たちと比べても「女」という感じがした。  カッと体の芯が熱くなる。  教室全体に漂う、上の女の子たちが着けているデオドラントスプレーや汗の入り交じった匂いが思い出したように鼻孔を衝いてきて胸が微かな痛みを伴いながら騒ぐのを感じた。  ミオは嫌がるだろうが、やっぱり元から女の子にしか見えないし、体はますます「女」そのものになってきている。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加