第十四章:雨の日に還《かえ》る――陽希十四歳

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「さて、と」  エアコンのリモコンを取り上げて一気に設定温度を下げ、風量を弱から強に切り換える。  ガーッと機械の作動する音が上から響いてきて涼しい空気が降りてくるのに改めて息を吐いた。 ――電気代がかかるから温度をやたらと下げないで。 ――あんまり強い冷房に当たってると体に良くないよ。  お母さんやお祖父ちゃんお祖母ちゃんは嫌がるが、俺はこのくらい下げないと暑くて仕方がない。  むしろ、普段の冷房を点けているかどうかも怪しいような暑苦しい部屋でよく皆、平気でいられると思う。  今日はお母さんもお祖父ちゃんも仕事だし、お祖母ちゃんも病院に出かけて俺一人だから、ささやかな贅沢だ。  一応はこの家族共用の書斎で夏休みの宿題やってる訳だし、このくらいは許されるはずだ。  パソコンに開いたWordのウィンドウを改めて見やる。 “「車輪の下」を読んで  二年二組 笹川陽希  僕はこの夏、課題図書の中からこの作品を選びました。ちょうどうちにも母が昔読んだ本があったのと、有名な作品なので一度ちゃんと読んでみたかったからです。  とても悲しい話でした。主人公のハンスは最後に死んでしまうのですから。苦しんでいる彼を結局は誰も助けてくれないのです。”  これだとまだ規定の二千字には程遠い。
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