第十四章:雨の日に還《かえ》る――陽希十四歳

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*****  この女の人は外国人でターシャさん(ターシャとサーシャの姉弟は去年ロシアに帰ってしまった)みたいなスラッとした長身だけれど、栗色の弛い天然パーマ(ではないかもしれないが)の髪といい、薄桃色の肌といい、黒目勝ちの目といい、ミオに似た面影がある。  水色のレースのランジェリー姿で登場してはにかんだ風な柔らかな笑顔を浮かべると、幼なじみが画面の中から誘い掛けてくるような錯覚に囚われる。  むろん、本物の、二人でいる時は相変わらず自分のことを「俺」と言う美生子がこんないかにも女らしい下着をつけて媚態じみた振る舞いをしてくれることはない。  そう思うと、胸が微かに締め付けられるが、画面の女性は惜しげもなく水色の肌着を脱いで白桃じみたふくよかな胸を露にして横たわる。  これはマッサージを受ける女性が最終的に施術する男性と性交渉に至るシチュエーションのポルノ動画だ。  女性を無理やり襲ったり明らかに苦痛な行為をさせたり屈辱的な扱いをしたりする動画は興奮より嫌な感じを覚えるので好きではない。  これは女性が飽くまで快楽を覚える反応や表情に重点が置かれているので、画面を通して自分が彼女に触れて喜ばせているような気分を味わえる。  薄桃色の顔をいっそう紅潮させ、目を閉じて切なげな声を上げている女性の姿を眺めていると、こちらも胸が高鳴りつついっそう締め付けられてくる。  自分もいつかこうした関係が現実に持てるだろうか。 ――ガーッ。  ヘッドフォン越しにエアコンの作動する無機的な音が響いてきた。  後ろから流れ込んできた微かに(ぬる)い空気が半袖から抜き出た腕を撫でる。  思わず振り向くと、少し離れた書斎の出入り口に母親が立っていた。
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