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(……うーっ、寒いっ!)
今朝の気温も氷点下十度。
息を吐くと白く染まるし、手袋に包まれた指先はかじかんでうまく動かせない。
こんな日は、いつもより早く家を出る。一歩先へ進めば、肌が冷気にさらされてますます冷えていくけれど、期待に膨らんだ胸はずっと温かいままだ。
両手をこすり合わせながら、バス停へ続く閑散とした通りを歩いてゆく。と、ようやく人通りの多い交差点に出た。
そこには、奇妙な光景が広がっていた。透き通った綿みたいな塊が空中にたくさん浮かんでいる。ほどなく滑らかに崩れたそれは、鈴のような音を立てた。
ほぼ同時に、老若男女の様々な声が聞こえてくる。
『あーあ。学校行きたくないなあ』
『いつも思うけど、ここの信号長すぎない?』
口を開くのも億劫なほどキンと冷えた朝は、普段なら、交差点を行き来する車の音や信号音だけが響いているはず。
だけど私の耳には、空を見上げたり、腕時計で時間を確認したりしている人々の声が、騒々しいくらいはっきりと響く。
彼らの口は、これっぽっちも動いていないのに。
『うー、昨日ゲームで徹夜したのまずかったかなあ』
『うわ! 弁当忘れてきた! どこで買う? コンビニ?』
今日みたいなすごく寒い日に、どうやら私にだけ聞こえる不思議な声。
いろいろ考えたけれど、一番しっくりくる答えはこれだった。
あの白い塊は、誰かの息とともに空中に吐き出された、凍てついて固まった「思い」である、と。
日本版・星のささやきと言えなくもない、でしょ?
そう思ったら、すごく胸が弾んだ。神様が与えてくれた奇跡のように感じた。
不器用な私に贈られた、期間限定の天の恵み。
その幸運をめいっぱい味わうため、寒ければ寒いほど、私の登校時間は早くなるのだ。
――そんな時、彼が、現れた。
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