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観光名所として名高い旧議事堂のある公園を通り抜けると、いつもの十字路へショートカットできる。バス停が集まっているそこの交差点で、一か月ほど前から、一人の外国人が目撃されるようになった。
プラチナブロンドのさらさらした髪と、澄んだ湖のような青い瞳。そして、すらりとした体躯。
このあたりでは珍しい、北欧系の白人だ。近くの高校の制服をまとった彼は、出没と同時に話題になり、特に女性陣からは熱い視線を浴びることとなった。
しかし、黄色い声にも徹底して無表情・無反応を貫く塩対応のせいで、やがて誰も秋波を送らなくなった。今では、みな、遠巻きに眺めるだけになっている。
私も、例にもれずその一人だ。あんな不愛想な人に話しかける勇気はないし、第一、何語で話せばいいのかわからない。英語なら通じるかもしれないけれど、英検3級すら落ちた私には土台無理な話だった。
そんなわけで私は、高校行きのバスを待っている間の目の保養として、今日も彼の姿を追っていた。
その彼が、何やらきょろきょろと周りを見渡している。
どうやら何かを探しているようだ。さりげなく近くに寄ってみたけれど、つぶやいている言葉が日本語じゃないのでわからない。
その時だ。彼のものらしき声が聞こえてきた。
『ダーラナホース。どこだ。あの馬、青くて目立つのに……』
可憐な音色を背景にしたそれは、例のごとき星のささやきだろう。言葉ではなく思いが形となっているからなのか、日本語に自動変換されている。
(だーらな、ほうす?)
何のことかわからないけれど、とりあえず、雪の積もった歩道を歩いて、色に的を絞って探してみる。
光を反射してまぶしい地面になんとか目を凝らしていると、ほどなく、雪に半分埋もれた青色を見つけた。
五センチくらいの大きさの、青い馬をかたどったキーホルダー。彼が必死に探している物はこれだろう。きっと大切なものなのだ。
拾い上げ、届けてあげようとしたとき、はっとした。
(ど、どう話しかける? あの、怖い人に……)
すぐさま他の方法を検討する。無言で渡して立ち去るのはどうだろう。はたまた、歩道沿いにある石垣の上にでもそっと置いておいたらどうか。
悩みながらチラチラ見ていると、ふいに、彼と目が合った。険しい顔をしてこちらに近づいてくる。
どう好意的に解釈しても、落とし物を拾ってもらって感謝している顔じゃない。
(! もしかして、私が盗ったと思われてる!?)
とっさに防衛本能が働いた。彼が口を開く気配を察し、素早く息を吸う。
「If you have something to say, say it clearly!」
「ノー! アイドントテイクユーイット!(いいえ、私はあなたを連れていきません!)」
相手の言葉を遮るようにそう叫ぶと、青い馬を彼に押し付けて逃げ出した。
タイミングよく到着したバスに飛び乗って、あとはただ、私の英語が間違っていないことをひたすら祈った。
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