白い息吹とココロの葉

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 今までも、こんなことがよくあった。  よかれと思って言った言葉が予期せぬ誤解を生み、相手に嫌われたり反感を買ったりする。誤解されたことに気が付いたときにはすでに関係はこじれていて、弁解したところで修復するのは困難だった。  そんなことが積み重なって、私は話すのが苦手なのだと思い当たった。そうして次第に、会話をしなくなっていった。今では、クラスで「暗い子」認定されている。  ――そんな私でも、星のささやきがあれば。  相手にどう誤解されたかすぐにわかれば、傷の浅いうちに対処できる。そのために心の声が聞こえるようになったのだと、最初はもろ手を上げて喜んだのだ。  実際は、学校に着く頃には氷のような寒さが和らぐせいで、役には立たなかったけれど。 (そう、うまくはいかないなあ……)  足元を見ながらとぼとぼと公園を横切っていると、急に肩をたたかれた。 「――ひあっ!?」 「Wow,sorry」  飛び上がって振り向くと、朝日を透かした金髪が目に入った。水底を思わせる青い瞳が驚きに見開かれ、『ああ、ごめん』という日本語が空中で響く。  私は思わずぽかんと口を開けた。穴のあくほど彼の顔を見つめてから、ようやく昨日の一件を思い出した。 「あ、もしかして、昨日のじゃ伝わらなかった? あ、アイムソーリー! バットアイムノー!」  慌てて言いつのったけれど、今度もうまく伝わる気がしなかった。日本語すらまともに操れない私が、苦手な英語で会話ができるわけがない。  泥棒をした日本人をやっつけようと、見張っていたということだろうか。  踏んだり蹴ったりで泣きたくなってきたけれど、彼の用件は違ったらしい。 『なんでこの人が謝ってるんだろう?』という心の声が聞こえた後、彼はまっすぐ私を見て口を開いた。 『とにかく良かった、見つかって。謝りたくて探していたんだ。昨日は、勘違いして悪かった。日本人、いつも俺のことじろじろ見るからさ。あんたもそうなのかと思って』  彼の流暢(りゅうちょう)な英語を聞き取っているふりをして、必死に心の声を聴く。  昨日のことは、どうやらお互いに勘違いをしていたようだ。彼は、私の無遠慮な視線が気になって、「言いたいことがあるなら直接言え」というようなことを言ったのだという。 「そ、そうなんだ……。気にしないで。じゃなくて、ユアウェルカム(どういたしまして)!」  誤解が解けたとわかって心底ほっとした。それだけで、一気に気分が浮上する。
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