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彼は、ラーシュ・オーバリと名乗った。父親の仕事の都合で、一か月前にスウェーデンから転入してきたらしい。
『やっぱり単一民族だから、外国人が珍しいんだろうな……』
ここからは塀で隠れている十字路の方角に目をやって、ため息をついた。
彼が注目を浴びている一番の理由は、外国人だからではなくイケメンだからだろうと思ったけれど、それよりも、居心地悪げな彼の様子が気になった。
そこまで嫌な思いをさせていたことに気づけなかった。「……ソーリー」と小さな声で謝ると、彼は首を傾げた。
『どうしてまた謝るんだ?』
「だ、だって……。アイルックユー。ソウ(私はあなたを見ます、だから)」
彼は不思議そうな表情をして、頷いた。
『え? ああ、確かに俺を見てるな。イエス』
いや、イエスじゃなくて。
やっぱりちゃんと伝わらない。どう言ったらいいか頭をフル回転させていると、
『それ、日本人のよくないところだ。悪くもないのに謝るのはやめた方がいい』
と、なんか説教されてしまった。
悪いから謝ったのに、言い繕えば言い繕うほど泥沼にはまってしまって、途中で諦めた。勘違いを正せなかった代わりに、せめてこれからは彼を凝視するのをやめようと誓う。
『あ、そうだ』
彼は思い出したように、馬のキーホルダーを取り出した。
『渡日するときに祖母がくれた馬のお守りなんだ。見つけてくれてありがとう、コトハ』
そう言って、はにかんだように微笑んだ。そうすると、冷淡な印象が一気に崩れた。
(わ、この人、笑うんだ……!)
空の色が濃くなり、太陽の光が、彼の髪と風に舞うダイヤモンドダストをキラキラと輝かせる。
今まで無表情か不機嫌そうな顔しか見たことのなかった彼が、笑った。
それは星のささやきにも勝る奇跡に思えて、心の中に深く刻み込まれた。
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