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バタン、と扉を閉じてから数刻、バンバン、という叩くような音がリクヒトの耳に届く。
「うそだろ」
あの人食い熊が追いかけてきたのか……?
青褪めた表情のリクヒトを前に「そのまさかよ」とセツナがため息をつく。
「あなたたちは山の神の怒りを買ってしまったの。藍屑の山の神は熊の化身。ふだんは温厚だけど、禁域で罪を犯した者には容赦ないの」
さっきからセツナは意味のわからないことばかり口にしている。山の神? 禁域? 地元の人間であるセツナが口にしていると、リクヒトが聞いていた都市伝説が可愛らしいものに思えてくる。
「入ってはいけない場所に立ち入っただけでも許されないことなのに、山の神が下界へ降りて来るなんて……」
「お、俺はセツナに言われた通りトクノ草を摘んだだけだ! 神様を怒らせるようなことは……」
「あなたにトクノ草を採ってきてもらうように言ったのは間違いだったわね」
彼の言葉を遮って、淋しそうにセツナは呟く――そして。
「神罰だろうが人食い熊だろうが殺人鬼だろうが、死ぬのは怖くないわよ……でも」
「ンっ――……」
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