ひとつ屋根の下、殺し愛

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 藍屑に暮らす人間は知っている。気まぐれに山の神は余所から来た人間の生命を奪い、食らうことで神威を強くするのだと。  そのなかでもセツナは神威を凍らせて藍屑一帯を守護させるために選ばれた花嫁だった。  だが、山の神は雪女であるセツナを愛さない。セツナもまた、人間を食らわなければ神としての実態を保てない夫に失望していた。それでも山の神はセツナがいなければただの人食い熊に成り下がってしまう。だから山の神はセツナを束縛した。嫉妬深くもなった。  雪女はいやいや熊に抱かれていた。  そんなときに出逢ったのが幼い、まだ声変わりもしていないリクヒトだった。  人間の死を間近にみたことのなかった彼は、見知らぬ老人の死に狼狽えていた。それを宥めたのが従業員のなかで最年少だったセツナだった。  彼はセツナの複雑そうな表情を理解したのか、泣きわめきはしなかったが、不安そうにしていた。だからセツナは彼を藍屑山へ連れ出した。夏休みの真っ最中。リクヒトは嬉しそうに山のなかで遊んだ。かわいい少年が自然と戯れる姿にセツナは癒されていた。自分の身体から大量の水が流れていることにも気づかずに。
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