ひとつ屋根の下、殺し愛

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「ありがとう。リクヒト」  幼いリクヒトのヒトコトは、山の神との理不尽な夫婦生活に疲れていたセツナに希望を与えてくれた。  その後、大学生になった彼が彼女を連れて来たときには絶望したけれど、彼が幸せならそれでいいと思っていた――まさか彼の恋人が彼の親友を選んで、お腹の子を堕胎するなんて。  どうしてリクヒトはへらへら笑っていられるのだろう――あたいだったら許せない。  そのうえ元サークル仲間でまた藍屑に来るという。なんて物好きで愚かな人間ども。  このときからセツナはリクヒトを傷つけた人間を排除するため動き出す。夫である山の神を利用して。  そしてその計画は半分だけ成功した。  まさかリクヒトまで狙われるとは思わなかった。彼を死なせるわけにはいかない。それならばいっそ――……  バンバンバン! と扉を叩く音が響く。人食い熊はもう待てない。  セツナは寝台で意識を失ったままのリクヒトにキスをして、立ち上がる。 「見たでしょう? あたいと彼が愛し合った姿を。もう、あなたとの関係は今日でおわりよ」
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