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それも病死だったり自死だったり、事件性の薄いものばかり。そのうえ死者のほとんどが県外から訪れてきた人間のため、地元に暮らすひとびとは目を瞑っているし、会社も何食わぬ顔で経営をつづけている。料金を格安にして。
リクヒトはそのことを知っていたから、学生時代の仲間五人でこのホテルに滞在することを決めたのだ。
ときどき肝試し感覚で訪れる客がいるとセツナも言っていたし、違和感はないだろうと思っていた。が。
「あなたにトクノ草を採ってきてもらうように言ったのは間違いだったわね」
きっぱり言い切るセツナに、リクヒトは項垂れる。彼女は知っている。知っていて、自分を助けようとしている。
「それならどうして」
「どうして熊がホテルの近くまで降りてきたと思う? ふだんは藍屑の山奥で静かにしている彼はね、怒っているの――ほら、小屋の周りをぐるぐる、ぐるぐる」
「やめろ!」
「安心して。さすがに小屋のなかまでは入ってこないわ。それに、お腹はすいていないはず」
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