ひとつ屋根の下、殺し愛

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 暗に残りの仲間を食らったと言いたげなセツナの言葉に、リクヒトはあたまを抱え込む。人食い熊などという突拍子もない存在が、ふだんの心理状況にないリクヒトをさらに追い詰めていく。  そして目の前にいるセツナもまた、リクヒトを無意識に追い詰めている存在だった。  地元のことを知る人間のなかでも若手に入る彼女は、他人の死に関して敏感で、それでいて冷淡で。  リクヒトが仲間のふたりをうっかり殺した殺人鬼であることに気づいていながら、警察に通報するわけでもなく、人食い熊から自分を救おうとしている。 「山を甘く見てはいけなくてよ。人間の味を覚えた熊は、もう、もとには戻れない」  バンバン、と扉を叩きつける音に、リクヒトの身体がびくりと跳ねる。  面白そうに彼を見つめていたセツナは、安心させるように彼の身体を抱き寄せる。 「神罰だろうが人食い熊だろうが殺人鬼だろうが、怖くないわよ……でも、せっかく死ぬのなら、あなたと一緒がいいわ」  うふふ、と冷え切った身体に腕を巻きつけて、セツナはリクヒトにキスをした。
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