ひとつ屋根の下、殺し愛

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 うまくやっていけていると思った。結婚式でも親友が結ばれたことを喜んで、いい友人でいつづけたはずだった。道化を演じていたつもりだった。ふたりが身体を絡めて抱き合う声が隣の部屋から聞こえてきたときも、笑っていた。嗤っていた。  ――俺の子を堕胎して、親友との結婚を選んだ元恋人のことも、そんな彼女を我が物顔で独占する親友も、幸せそうで何よりだ。  その喘ぎ声が、苦しそうに救いを求めていることに、リクヒトは気づかぬふりをした。    * * *  ホテルの一室でリクヒトの元恋人と親友夫婦が死んだことを、隣室のふたりは不審がっていた。お前が殺したのかと問いただされそうな鋭い眼差しを向けられた。けれどその先にいたのは熊だった。迸る悲鳴と轟く断末魔。  なぜホテルの敷地内にとつぜん人食い熊が降りてきたのかはわからない。リクヒトはセツナに引っ張られてその場を逃げ出した。ホテルの従業員が持ってきた猟銃が火を噴く。それでも熊は人間を襲うのをやめようとしない。阿鼻叫喚地獄絵図。  人間の血なのか獣の血なのかわからない、赤黒い色彩が視界を遮るように花開く。 「な、なんで、熊っ……!」 「逃げて」
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