ひとつ屋根の下、殺し愛

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「良かった、電気は辛うじて使えるみたいね」 「あ……ああ」  はぁはぁと白い息を切らせて飛び込んだ山小屋は、朽ち果てた見た目と異なり、誰かが暮らしているかのような形跡があった。  なかでも中央に鎮座している大きな寝台が場違いで、山小屋ではなくホテルのコテージなのではないかと思えるほどだ。 「リクヒトは何度かこの山に来てるんだっけ」 「まぁ、な。けど、セツナの方が地元だろ?」 「地元でも藍屑山(らんせつざん)まで足を運ぶことは滅多にないわよ。子どもの頃は“人食い熊”や“雪女”がいるから近寄るなってよく言われていたわ」 「人食い熊、か……罰が当たったかな」 「?」 「いや。なんでもない」  真冬になると雪で閉ざされる多雪山系(たせつさんけい)の山々だが、十月末までは登山客を受け入れているし、麓のスキー場はこれからがシーズンになる。  先日初雪を観測したばかりの藍屑周辺も、今年最初のウインタースポーツを楽しもうと週末、地元や近隣からの観光客が訪れていた。リクヒトもそのうちのひとりだ。 「セツナを巻き込むつもりはなかったんだ。けど、あそこにいたら俺は」
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