偏屈ばあさんのゴミ屋敷

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 次の日、隼人とあおいちゃんと航大に、矢崎の偏屈ばあさんの話をした。  航大が、『にこにこ歯科医院の院長が亡くなって、いい先生だったのに残念だって、矢崎のおばあさんも気の毒だって、ママが言ってた』だって。オレはそんなこと全然知らなかった。  あおいちゃんは、最初はゴミ屋敷に行くのを嫌がってたけど、『おじいさんの大切な形見を探してたんだね』と言って、何だか知らないけど目をうるうるさせて、付いて来てくれることになった。  オレたちは放課後、毎日ばあちゃんのゴミ屋敷に行って、ちょっとずつゴミを捨てたり、服をたたんだりして、おじいさんのペンダントが無いか探した。 「ふん、こんなにガキが来ちゃ、うっとうしくてかなわん」  とか、 「あ゛あ゛、それは触るな、パンツじゃ」  とか口をくちゃくちゃしながら、最初は嫌がるふりをしてたのに、だんだん、オレたちと一緒にゴミを片づけ始めた。 「おばあちゃん、おじいちゃんの歯のペンダント、見つかるといいですね」  あおいちゃんが、この作業に似合わないふりふりのスカートをきゅるんとして、また片付け始めると、「女の子は冷やしたらいかん。ズボンで来なさい」とか言って、「来なさい」に変わってるじゃん、とオレは心の中で笑った。  ――そして、一週間後。 「これ……、これじゃ……!!!」  仏壇の前のゴミや、出しっぱなしの物たちがずいぶん片付いた時、ばあさんが床の端で見つけた。 「え! うそ!」 「見せて見せて!」 「やった、どれ!?」  オレたちはばあさんが突き上げた手に群がった。白くて、丸くて、つるつるした石が金色の綺麗な飾りにはめ込まれて、首にかける鎖が付いていた。 「おとーさん……」  ばあちゃんは、そのペンダントをぎゅっと両手で包んで、胸に押し当て、体を丸めて抱えた。 「よかったね、ばあちゃん」 「ふん。おまえたちが勝手に来てただけじゃ、礼は言わんからな、蓮」  ばあちゃんは泣いて、丸まっこくなったまま、オレたちに向かって偏屈を炸裂した。オレたちは、顔を見合わせて、ゲラゲラ笑った。   「これにて、おじいさんのペンダント大捜索大作戦をしゅうりょうする!」  オレが敬礼のポーズをし、隼人、あおいちゃん、航大もそれに続いた。 「なんじゃい、そりゃ」  と、ばあちゃんは長い前髪を払って目をこすった。  オレたちが、そろそろ帰るかと玄関へ向かおうとした、その時。 「そうじゃ」  と、ばあちゃんが立ち上がった。 「一緒に、墓参りへ行かんかい」  ばあちゃんは、曲がった腰をとんとん叩いて、オレたちを呼び止めた。 「いいね、おじいさんのお墓参りへ行こう!」 「見つかったよって、報告しなきゃ」 「すぐあそこのお墓でしょ、行こう行こう」 「おじいさんも、もしかして見てたかも」 「ふん、ガキはやかましい。あぁほら蓮、靴を踏まんとちゃんと履かんかい。隼人、飛び出すな、車がくる。あおい、ほれ、虫よけスプレーふり。航大、その草履とってくれるか」  ぽーんぽーらぽぽぽーら、と、夕方5時を知らせる音楽と、放送が流れた。夕焼け空に、カラスが飛んでいる。オレたちが『矢崎』の表札の前へ出ると、鳩が二羽、道路の脇の雑草をついばみながら、のんきに歩いていた。    偏屈ばあさんの草履がゆっくりと、かこん、かこんと鳴る。  オレたちはばあちゃんの周りで飛んだり跳ねたりしながら進む。  花に集まる蝶みたいな、オレたち五人の影がのびた。  オレはその時思ったんだ。  そうだ。大きくなったら、歯医者か、おこつをペンダントにする人の学校へ行こうって。  ばあちゃん、「ふん。すきにせい」って言うよな、ぜったい。 <完>
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