偏屈ばあさんのゴミ屋敷

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 ゴミ捨て場に着いた。青いあみあみのネットをめくりあげる。うっ。くさ。鼻をつまみながら、ゴミ袋を観察した。どれも半透明で、中身が少しわかる。へっ。どれがうちのゴミかどうやって当てるかって? オレにはわかるのさ。だって、昨日の夜、この夏で壊れて役目を終えた、バズーカ型水鉄砲を捨てたんだから。あの水鉄砲をゴミに出してるのは、さすがにうちだけだろ。  見えにくいところは、重なったゴミ袋をどけたりしながら、全部の袋を観察した。 「あれ……? 無い……?」  えーー? なんで? 青と黄色のでっかいバズーカが入ってるのに、わからんってことあるか? 絶対この袋の外側からでもすぐわかると思ったのに。だって、これも、これも、赤い何かの箱とか、これなんかポテチの袋じゃん。丸見えじゃん! わかるじゃん! なんで……? 「れんー、おはよー」 「蓮くん、何してるの?」 「くっさー」 「今日は二年生だけの学年集会があるから遅れるなって、先生言ってたぞ」  あぁそうだった! うぅ……ここまでか……。オレの、乳歯コンプリート記念品は、ここまでの運命なのか……。  青いあみあみネットを元に戻しながら、悔しい気持ちで胸がいっぱいになった。くっそぅ……。昨日のオレ、なんで捨てちゃうんだよ……。ポケットじゃなくて筆箱に入れとけばよかった――。  なんでここにないんだ? ゴミ収集車が、うちのゴミだけ先に持って行ったなんてことあるはずないだろう?  ……ん。  はっ! と、何度か見たあの場面が浮かんだ。  矢崎の偏屈ばあさんが、時々、ここからゴミを家に持って行ってるところを。  あの誰も寄り付かないゴミ屋敷に、そうっと持って入るところを……!  オレが幼稚園に入るくらいまではそうじゃなかったのにって母ちゃんが言ってた、あの矢崎の偏屈ばあさん――! 「そうだ、あのゴミ屋敷へ行こう……」  オレは静かに、ごくんと唾を呑んだ。  鳩が何かに驚いて、バサバサバサっと飛んでいく。 「? 蓮くん、なんて?」 「行こうぜー」  オレは、「待ってー!」と手を払って、隼人とあおいちゃんと航大を追いかけた。  学校から帰ったら、矢崎の偏屈ばあさんのゴミ屋敷へ行こう。  オレの歯、ぜったいに取り返す。
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