8人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
うっ。『矢崎』の表札の前に立っただけで、今朝のゴミ捨て場と同じ匂いがする。しかし、そんなことは関係ない。オレの歯を取り戻すまでは。
――よし。鳴らすぞ。
ピンポーン。
……。返事なしか。いないのか? どっかに出かけてるのなんて、ゴミ捨て場くらいか見たことないけど。もう一回鳴らしてみるか、と迷っていると、ドアが開いた。
「なんじゃぁ、ガキかい。また市の職員が来たか思うたら」
白髪が混ざったバサバサの髪、黒いだるだるのTシャツに曲がった腰、何の絵か分からない赤みたいな黒みたいなテロテロのスカートみたいなズボンみたいなのにサンダルを履いて、偏屈ばあさんがドアを開けたまま喋った。
「あのう、オレのゴミ袋、持って行きましたか!?」
「ああん?」
前髪が長くて、顔はよく見えない。怒ってるのかな。ドキドキするけど、ここで負けたら、歯は救えない……!
「今朝、ゴミ捨て場に、青と黄色のバズーカが入ったゴミ袋、ありませんでしたか?!」
「なんじゃぁ、青ガキ、その前に名乗らんかい」
「あ……。すいません。堀田蓮です」
「ふん。バズーカ? あぁ水鉄砲か……」
矢崎のばあさんは、ゆっくりと首を回して、家の中を見た。
「え、ありますか!? そのゴミ袋、オレのなんです! 探したいものがあって!」
ばあさんはもう一度オレを見て、ゆっくりとかがみ、ドアにストッパーを挟んだ。
「どこへ置いたか、わかりゃせん」
と言って、ゆっくりと家の中へ戻る。ん? 家の中にはあるってことだよな……? ドアを開けてくれてるってことは、入れってことか……?
「あのう、探してもいいんですか?」
一段高い玄関の淵に手をついて、サンダルを脱いでるばあさんの尻に向かって聞いた。
「ふん。好きにせい」
最初のコメントを投稿しよう!