偏屈ばあさんのゴミ屋敷

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 うっ。『矢崎』の表札の前に立っただけで、今朝のゴミ捨て場と同じ匂いがする。しかし、そんなことは関係ない。オレの歯を取り戻すまでは。  ――よし。鳴らすぞ。  ピンポーン。  ……。返事なしか。いないのか? どっかに出かけてるのなんて、ゴミ捨て場くらいか見たことないけど。もう一回鳴らしてみるか、と迷っていると、ドアが開いた。 「なんじゃぁ、ガキかい。また市の職員が来たか思うたら」  白髪が混ざったバサバサの髪、黒いだるだるのTシャツに曲がった腰、何の絵か分からない赤みたいな黒みたいなテロテロのスカートみたいなズボンみたいなのにサンダルを履いて、偏屈ばあさんがドアを開けたまま喋った。 「あのう、オレのゴミ袋、持って行きましたか!?」 「ああん?」  前髪が長くて、顔はよく見えない。怒ってるのかな。ドキドキするけど、ここで負けたら、歯は救えない……! 「今朝、ゴミ捨て場に、青と黄色のバズーカが入ったゴミ袋、ありませんでしたか?!」 「なんじゃぁ、青ガキ、その前に名乗らんかい」 「あ……。すいません。堀田蓮です」 「ふん。バズーカ? あぁ水鉄砲か……」  矢崎のばあさんは、ゆっくりと首を回して、家の中を見た。 「え、ありますか!? そのゴミ袋、オレのなんです! 探したいものがあって!」  ばあさんはもう一度オレを見て、ゆっくりとかがみ、ドアにストッパーを挟んだ。 「どこへ置いたか、わかりゃせん」  と言って、ゆっくりと家の中へ戻る。ん? 家の中にはあるってことだよな……? ドアを開けてくれてるってことは、入れってことか……? 「あのう、探してもいいんですか?」  一段高い玄関の淵に手をついて、サンダルを脱いでるばあさんの尻に向かって聞いた。 「ふん。好きにせい」
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