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「ありがとう、ばあちゃん!!」
オレは用意していた小さいジッパー袋に歯を入れてポケットに仕舞うと、ばあちゃんにお礼を言った。前髪で隠れた目が、少し見えて、
「おう、よう探したな」
と言ってくれた。広げたゴミを元通りにして、オレは先に家の中に入った。ばあちゃんはゆっくり上がって、また、カッカッ、ふん! と謎の方法で網戸閉めをやっている。
その後ろ姿に向かって、オレはずっと心の中にあった質問を投げてみた。
「……ねぇばあちゃん、なんでこんなにゴミを集めるの?」
「……」
ばあちゃんは、するすると網戸を閉めて、そのままオレの方を向かずにいる。
「もしかして、ばあちゃんも何か探してるの?」
「……」
ばあちゃんは、ちょっとギクっとした顔をして、薄汚い布団の上にゆっくりと座った。
「オレが一緒に探してあげようか?」
ばあちゃんは、ちらりとオレを見る。何か言いたそうにして、首をぐっと下にした。
「ええわい」
ぽつんと答える。なんだか、すごく悲しそうだ。
「今日のお礼に、オレだって協力するよ!」
「わしゃ何もしとらん」
「いや、だって、ばあちゃんがゴミをとっといてくれなかったら、オレは歯を救い出せなかった。それに一緒に探してくれたし」
「ふん……」
ばあちゃんは、首が曲がり過ぎて取れそうなくらい、下を向いたままだ。
「ばあちゃんは、何を探してるの?」
ばあちゃんはまた、オレをちらりと見た。そしてまた下を向く。またオレを見る。また、下を向く。
オレは、悲しそうなばあちゃんを見て、さっき変な笑い方で爆笑してたことを思い出した。そうだ。
「ばあちゃん」
また、ばあちゃんの顔の前にいって、歯抜けの口をにーっとして見せた。
「ひっひっひっひ」
ぱくぱくぱくぱく、とまた変な笑い方で笑った。
「歯じゃ」
ひとしきり笑い終えて、ばあちゃんは答えた。
「は?」
「そう、わしも、歯を探しとる」
「え? ばあちゃんの歯? そんなにいっぱい、捨てちゃったの?」
「違うわい、おとーさんの歯じゃ」
「?」
網戸の外に、すずめが二羽やってきた。
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