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俺は空き巣歴十年のベテランだ。狙った家には必ず、侵入でき、お宝を頂戴する。かつて、ナポレオンが言っていた、わたしの辞書に不可能はないとあるように、俺の辞書に不可能な家はないと記しておこう。
空き巣が一番、活発になる季節は夏の終わりの涼しくなってきそうな時期だ。この時期は冷房を使わなくなり、窓を開けて過ごす機会が多くなる。まさに空き巣にとっては、願ったり叶ったりの状況になるわけだ。
窓が開いているということは、俺たちを歓迎するよという印に他ならない。
真夏や真冬はエアコンを使用するので、窓という窓がしっかりと閉じられるので、空き巣泣かせというわけだ。
くどくど説明したが、要するに鍵をかけていない、いわゆる無締まりの家は格好のターゲットというわけだ。
さて、暑かった夏もひと段落し、涼風を感じる頃になって、俺は早速、下見をする。下見は空き巣にとって、とても大切な作業だ。ラーメンのスープを仕込む作業に似ている。
下見で大切なのは、そこに住んでいる家族の行動パターンを見極めることだ。空き巣にとって、家の中に人がいない状況が一番、仕事がやりやすい。ただ、番犬がいる家はNGだ。
だから、本業の盗みよりも、張り込みの刑事みたいにじっくりと観察する方が長く、重労働なわけだ。
ただ、空き巣の間では、情報交換も大切だ。あの家は狙い目だ。あの家はセキュリティが万全だという情報は命綱だ。情報を制するものが勝つという、不文律みたいなものがある。
俺はその情報交換の場で、奇妙な噂を耳にした。
ある先輩の空き巣によると、ある地区の白い壁の三角屋根の家に空き巣に入った仲間が、忽然と消えてしまったというのだ。
俺は神隠しでもあるまいしと、笑って言うと、先輩の空き巣は顔を真っ赤にして、怒り出した。本当の話だ。何人もの空き巣が消息不明になっているんだ。だから、俺は近寄らないと言った。
俺は先輩の空き巣の真剣な表情を見て、半信半疑だったが、興味をそそられた。
俺は無謀にも、空き巣が消える家に侵入しようと決心した。もし、俺が何事もなく、空き巣を成功させれば、仲間内で評判になり、一躍、空き巣界隈ではスターになれる。そう思っただけで、身体が興奮して震えてくる。
夏の終わりを感じる涼しい風が吹く中、俺は噂の家の裏庭に侵入した。見上げて口笛を吹きそうになった。二階の窓が開いていた。
俺はロープを二階の窓枠に引っ掛け、軽業師のようにスルスルと登る。
大丈夫だ。あんなのは単なる噂だ。仲間は根も葉もない噂にびびっているだけだ。
慎重に窓枠に足をかけ、音を立てないように着地した。その時、部屋の灯りがつき、俺は眩しさのあまり、目が開かなくなった。
「ひっかかったな。空き巣め」
俺が目を開けると、そこにはスーツ姿の屈強な身体をした男が三人立ちはだかっていた。
「あの噂を聞いてきたんだね。君も冒険心に満ちあふれた、プライドの高い空き巣だったんだね」
男の一人が言った。
「おまえらは誰だ?」
「警察だ。この家はね、言うなれば、空き巣ホイホイなんだ」
「空き巣ホイホイだって?」
「ゴキブリホイホイは知っているよね。君はきっと、こう考えたはずだ。この家に侵入し、無事帰って来れば、一躍有名になれるとね。図星だろう?」
俺は悔しさのあまり、ぐうの音も出なかった。
夏の終わりとともに、俺の空き巣生活も終わりを告げた。
<了>
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