晩夏の花火

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「去年我慢した分、今年楽しみにしてたんだからね」 そう言って、舞香は机の上に飾ったままの簪を見た。 年上の拓海に似合うように、舞香なりに大人っぽいものを選んだのだ。藤の花がキラリと輝いている。 「ほんとにごめん」 ドタキャンされた当日は、怒りに任せて風邪をひいた拓海にあたってしまった。花火大会のために何日も前から準備していた自分の気持ちをどこに仕舞えばいいのか分からなかったのだ。 「うん」 拓海だって約束を破りたくて破ったわけじゃない。それはわかっているつもりでも、その日だけは大事にしてほしかった… 思い出すと悲しくなってきた舞香を見て、拓海が後ろに置いていた袋を差し出す。 「これ」 「なに?これ」 差し出された袋を受け取って、不思議そうに首を傾げる。 「くすり」 「くすり?」 薬にしてはやけに大きい。A3くらいありそうなその袋の中身を開けて見ると 「え、花火?」 「年に一回花火見ないと死んじゃうんだろ?」
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