少年の暮らす場所

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「案外、需要は有るところには有るものだな」  断罪人は取り出した臓器をクーラーボックスに入れ、手術器具を纏め始める。罪人と言えば、前回より麻酔の効きが良いのか、呼吸の為に胸部が上下する以外に体が動くことはない。 「そりゃ、この動画を観る為に課金する層だからね。あれが駄目な視聴者も居れば、興味のある視聴者だって居るでしょ」  動画撮影者は、操作画面を眺めながら話した。そして、その画面を見ながら満足そうな笑みを浮かべる。その後、二人はそれぞれに後始末をして部屋を去った。二人は罪人が動かないままであっても、気にすることはない。  断罪人は、罪人の元を訪れては世話をした。これまで、罪人に口からの栄養を与えてこなかった断罪人であったが、気持の変化があったのか温かな粥を差し出し始めた。とは言え、様々な苦痛を与えられてきた罪人が、直ぐに粥を口にすることは無かった。幾ら腹が減っていたとしても、罪人には警戒心の方が大きかった。  しかし、回数を重ねる毎に罪人は差し出された温かな食物への要求に耐えられなくなり、粥を口に含んでしまう。一度口に含んでしまてからは、罪人は腹を満たす欲望に抗うことは出来なかった。粥に米以外の材料が混じり始めた時も、罪人は何の疑問を持たずに粥を啜った。その材料が細かく刻まれた、かつて自らの臓器であったものだと知るよしもなく。  罪人の傷が塞がってきた頃、断罪人は新たな動きを見せた。先ずは、傷を塞いでいた医療用ホチキスを外し、その周囲をアルコールを含ませた脱脂綿で清めた。それから、彼は罪人の食事に睡眠導入剤を混入し眠らせる。断罪人は眠り始めた罪人の体を拭くと綺麗な服を着せ、その状態で罪人の細長い袋に詰める。  その後、断罪人は罪人を車に詰め込み、夜の登山道を進んだ。そうして、滑落しやすい場所まで罪人を運んだ後で、断罪人は罪人だけを崖の下に投げ捨てる。罪人は、落下の衝撃で低い声を漏らした。それが断末魔であるかは、断罪人には判らなかった。それでも、断罪人はその場から直ぐに立ち去った。まるで、罪人が生きた状態で発見されることはないと確信しているかの様に。
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