放置子の夏休みはサバイバルである

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「今日の話はこれで終わりだ。気を付けて帰れよ? 特に、荷物が多い子は、気を付けて歩けよ?」  これで解放されると知った生徒は、今までより元気な声で返事をした。そうして、生徒はそれぞれの荷物を抱え、担任に別れの挨拶をしながら教室を出た。学校の廊下は、様々なクラスから吐き出される生徒で賑わい、殆どの子供が夏休みを「楽しい期間」と認識していることが窺える。だが、それは全ての子供には当てはまらなかった。  その少年は、机上の荷物を眺めながら佇んでいた。彼の髪は綺麗な色をしているが、手入れがなされていないのか質は悪かった。また、同級生に比べて体は細く、その瞳からは陰鬱とした感情が浮かび、夏休みを楽しみにしている様子は微塵もない。 「どうした? 調子が悪いなら保健室に」 「違うんです。ただ……いいえ、なんでもありません」  一人教室に残った少年は、苦しそうに唇を噛んだ。彼は何かを言いたそうだったが、それが言葉になって発せられることは無い。
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