プロローグ

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 その後、何処にも寄り道することなく家に帰った少年は、暗く湿った廊下に向かって言う。 「ただいま」  少年は返答が無いことなど気にも留めず、内側からドアを閉じると直ぐに鍵を掛けた。誰も見てはいない玄関で、少年は靴を揃えて脱ぐ。その靴は、何時から履き続けているのか、形は歪み靴底はすり減っていた。また、少年の靴は、今まで履いていたものしか無かった。だが、玄関の叩きや靴箱には、大人用の靴が所狭しと置かれている。  ランドセルを床に置いた後、少年は担任から出された宿題を始めた。時計の針が進む音だけが響く部屋で、少年は集中力を切らすことなく宿題を終わらせる。  頭を使ったせいか、少年の腹からは小さな音が鳴った。しかし、少年に用意されたものは少なく、彼は空のスナック菓子の袋を見る。  少年に与えられるものは少なく、それは食べ物や衣服に留まらなかった。学校で使う必需品でさえ、集金袋を渡される度に少年は辛い思いを繰り返した。そして、彼が年を重ねるにつれ、それは諦めや無力感として少年の心に染みついていく。
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