放置子の夏休みはサバイバルである

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 担任は、素早く荷物を纏めると電話で聞いた病院へと向かった。病院の受け付けで彼は事情を説明し、少年を見舞おうとする。事務的な対応を経た後、担任は少年が寝かされている病室へと向かった。  八月の路上で倒れた少年の皮膚は所々に火傷を負い、痩せさらばえた腕には点滴の針が刺さっている。日に焼け、栄養も摂れずにいた髪や肌はダメージが酷く、それを目の当たりにした担任の表情には怒りが浮かんだ。  担任は、暫く少年の様子を見た後で複数の相手にメッセージを送った。その後、担任は病院側から「保護者に連絡が取れないのかどうか」を問われ、「連絡はしたものの応答はなく、メッセージをいれるまではしたこと」を素直に伝えた。すると、病院の会計を担当する人間は面倒臭そうな感情を表に出す。そんな中、少年の治療を受け取った医師がやって来た。  その医師は、直ぐにピリピリとした空気を読み、担任へ話し掛ける。 「搬送された少年の担任ですね? 少年の境遇について、伺いたいことが幾つかあります」  担任はその話を快く受け入れ、医師の案内の元で小さな部屋に二人で向かった。その後、彼等は机を挟んで向かい合う形で椅子に座る。 「医者には、虐待が疑われる子供を治療した場合に通報する義務がある。既に通報は済んでいるが、彼を良く知る者の話にも興味がある」  医師の話題に、担任は警戒をする。 「何、別にあなたを責めようとしている訳では無い。ただの興味だ」  担任は、医師の考えを読もうとした。しかし、読もうとすればする程に、医師の感情は手の届かない場所へと逃げた。 「学校で倒れたならいざ知らず、保護者より先に担任が見舞いにくるのはレアケースですから。それに、あなたは良い眼をお持ちの様だ」  医師の言葉に、担任は警戒を強めた。それでも、彼はこれまでに得た少年の情報を、治療や今後に役立ちそうなものだけを選んで医者に伝える。
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