放置子の夏休みはサバイバルである

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「実に有意義な情報でした」  医師は、何処か不気味な笑顔を浮かべ、担任も笑顔を返した。 「誤解なさらないで欲しいが、保護者がどうであれ私は診断に基づいた治療を行うだけです。保護者がどんなものであれ、治療費の回収は私の責任では無いですから。私は医者として最良の治療を選択するだけです」  医師は立ち上がり、部屋のドアを開けた。この為、担任も椅子から立ち、開け放たれたドアを通って廊下に出る。 「暫くは点滴で様子をます。消化器系も弱っているだろうから、見舞いの品は」 「ええ、分かりました。そちらもお忙しいでしょう?」  担任は、医師の前から足早に去った。一方、少年を担当した医者は、首を傾げながらそれを見た。  担任は一度学校に戻り、これまでの報告をした。それから、再度他の教師達の前で保護者に電話を掛ける。しかし、今回も保護者の応答はなく、担任病院で聞いたことを簡潔に纏めてメッセージに吹き込んだ。既に職員室は暗い空気に包まれている。 「あの、気を落とさないで下さいね」  言いにくそうに伝えた教師に、電話を終えた担任は向かい合う。 「はい、僕がここで気を落としている場合では無いですね。それに、もしものことを考えて、後でまた見舞いにいかないと」  その後、教師達は定時まで仕事をこなし、その後はそれぞれのプライベート時間となった。
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