魔の対立論争

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人間と魔族では見た目から中身まで明らかに違う。 仮に魔族に入ったとしても、生まれつき人間の身体では魔族側の人間というだけで魔族にはなれない。 当然、勇者だってそこは分かっている。 「・・・何を言っているんだ?」 「魔族側につけば俺に自由を与えてくれるだろ!?」 アシュリーは勇者が人間側でどんな境遇だったのかが気になった。 勇者の顔は真剣で冗談やその場しのぎで適当なことを言っているわけではないと感じたからだ。 「特別扱いなんてされない! 俺は晴れて自由だ!!」 「しかし」 「もちろん魔族側に損はさせない。 人間界には何か適当に骨でも送って『勇者をやっつけた』とでも言ってくれればいいよ」 兵士たちは困ったように顔を見合わせると勇者は閃いてみせた。 「そうだ! 丁度昨日食ったばかりの魔物の骨があったな。 おやつにしゃぶろうと思っていたけど、この際仕方ない」 勇者はそう言うと魔王城から飛び出していった。 そして数分後、確かに人間の骨に見えるようなモノを持ってきたのだ。 「ま、まさかこれは・・・」 「いや、勘違いしないでほしい! 人間でも魔族の骨でもない。 さっき言った通り、襲われたから返り討ちにした魔物の骨だ。 かなり大きかったから加工に時間がかかってしまったけどな」 「加工だって・・・!?」 ―――やはり勇者の実力はこちらの想像以上のものなのかもしれない。 ―――確かに勇者が魔族側についてくれるならこちらにとって悪いことはない。 ―――そもそも魔族側に人間と争うような気持ちはないのだから。 ―――だけど・・・。 兵士も皆葛藤しているようだった。 「・・・悪いがすぐには決められない」 「そんなの分かっているって。 俺はここで待っているから納得いくまで話し合ってよ。 ただ『入れてくれる』って言うまで絶対にここから動かないけどな」 そう言うと勇者はその場に腰を下ろした。 そして魔族の様子をジッと眺めている。 ―――そうなんだよな。 ―――100%勇者を信用できるわけがない。 「門番、勇者を抑えておけ」 「はッ」 そしていつものように議論が始まった。 もちろん勇者はその様子を一部始終眺めている。 「あの勇者を受け入れるか?」 「勇者は魔族側につきたいと言っている。 勇者が戦力になれば我々がかなり有利じゃないか?」 「こんなうまい話があるもんか。 絶対に罠だ」 「罠じゃなかったら大損だぞ!? それに相手は一人なんだ。 万が一裏切られたとしても我々が勝つに決まっている」 「何事もないようこのまま追い出すのが最善だ!」 「追い出して仲間を連れて戻ってきたらどうするんだ! もう帰さないようここへ留めておくべきだろ!!」 「分かった分かった。 いつも通り多数決をしようではないか」 ―――・・・今回はどちらの意見も分かるけど、やはり人間を信用はできないな。 そうして分かれるもまたもや25対25。 それにも皆呆れたようだ。 「流石に頭にきた。 こんな魔族の一大事だというのに毎回毎回しょうもない意見に票を入れやがって! もう討論では気が済まない!!」 「それはこっちもだ!!」 「何だとぉ!? やるのか!?」 仕舞いには持っている槍で喧嘩をし始めた。 流石に今そのようなことはすべきではないだろうと思いアシュリーは割って入る。 「おい、ちょっと待て!! 今は勇者の前なんだぞ!? 内輪揉めなんてしている場合じゃ・・・ッ!」 勇者を追い出す派だったアシュリーでもこの光景は流石に見兼ねてしまった。 だが力の強い仲間が何人もいて簡単には止めることができない。 それを見ていた勇者が言った。 「アンタたちっていつもこうなのか?」 「・・・何?」 勇者の言葉に争いはピタリと止まる。 勇者は溜息を大きくつきながら呆れるように言った。 「いつもこうやって言い争ってんの? だから俺がここへ到着するまで見張り以外城を守りに来なかったわけ?」 「「「・・・」」」 図星を突かれ何も返すことができない。 「全然意見がまとまらないのによく魔王城の兵士なんてやっていられるよな」
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