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―――・・・気まずいな。
―――まず周りの目が痛い。
魔族と勇者では外見が明らかに違うため、街の人にさえ一目見て勇者が人間だと分かってしまう。 一緒に歩くということは畏怖と好奇の目を向けられる。
ただそのようなことを気にする様子もなく勇者は堂々と歩いている。 敵地にいるという感覚さえないのかもしれない。
もっとも勇者が魔族側になったとしてもその外見は変わらないのだから、気にしていてはそもそも魔族側につくことなどできないだろう。
―――・・・はぁ、どうしてこんなことになっているんだ。
―――いつもならと思ったけど、実りのない議論に時間を無駄にするばかりか・・・。
―――よく考えてみると今のこの役目って物凄く重要なんじゃないか?
そのようなことを思いながら勇者に目を向ける。 白く輝く鎧が万年薄暗い魔界によく映える。 飄々としており魔族に入れてくれだなんて突拍子もないことを言うが、その全身は引き締まり隙が伺えない。
そもそも人間のいない魔界のど真ん中。 敵地でニコニコと歩いていること自体が普通ではないのだ。
「「・・・」」
先程から二人は沈黙を貫いている。 勇者は楽しそうに色々と目を向けているが、対照的にアシュリーは勇者を見るか俯くかだ。
―――案内をすることになったけど何を喋ればいいのか分からない。
―――そもそも勇者は何者なんだ?
―――敵なのか、それとも・・・。
怪しむような目を向けてしまったためか勇者はそれに気付いたようだ。
「ん? ははッ、そんなに緊張しなくても大丈夫だって!」
「・・・緊張はしていないが」
「そう言えば名前も名乗っていなかったな。 俺の名はエヴァン。 食う寝る休むが人生の意義だと考えている18歳だ!!」
―――変な奴・・・。
―――勇者とは到底思えない。
そうは思ったが魔族と同じように名前があるのだと分かると妙に親しみを感じたのも事実だった。
「俺はアシュリー。 見ての通り魔族兵士の下っ端さ」
「下っ端だから自分の意見を強く主張できないっていうわけじゃないんだろ?」
「あぁ。 仲間の議論なんてくだらないと思っているから口出ししないだけだ」
「どこの世界にも集団からあぶれる奴っているよな! 立場は違えど似た者同士かもしれないな」
そう言って勇者は楽しそうに笑っていた。
「アンタ・・・。 いや、エヴァンは人間のトップだろ? 下っ端の俺とは全然違う」
「いや、違いやしないさ。 それに勇者が人間のトップっていうわけじゃない」
「そうなのか?」
「あぁ。 勇者っていうのは単に人々を災いから救うための存在らしいぞ」
「災いって・・・。 俺たちは災いか」
「そう! 魔族って別に悪い奴らじゃないだろ? 昔はどうだったか知らないけど、今は互いに不干渉。 なのに俺はここにいる・・・。 いや、来させられたんだ」
勇者はそう言うと明らかに表情を曇らせていた。
「大変なんだな。 ここにいる間は休暇を取っているくらいに思っていればいいんじゃないか?」
「うーん、休暇か・・・。 でも休暇って終わりが来るだろ? 終わりが来たらまた魔族を退治しに行かなければならない。 もう面倒くさいんだよ」
「俺がどうにかできる問題じゃない気がするけど、とりあえず街を案内するよ。 案内といっても別に街に特段詳しいわけでもないけど」
「あれは口実さ。 堅苦しいしまとまらないし、あそこにいても時間の無駄だと思ったからな」
「それは本当にそう」
二人は街を歩いていく。 エヴァンの話からすれば人間の街とそれ程大きくは変わらないようだ。
―――争いなんてなくても勇者が災いを引き起こす魔王を倒しに魔王城へやってくる、ということを俺たちは分かっていた。
―――つまり魔族と人間の関係としてそれは決められた事実みたいなことなんだ。
―――だけど災いなんて言われるようなことはしていないし、まぁ、魔獣とかが人間たちに迷惑をかけたりはあるけどそれは俺たち魔族も被害を受けているし・・・。
魔族が人間の住む街へ行く機会がそもそもなかった。 それに人々の目もありあまり大っぴらなことはできなかった。
「人間の街はここから物凄く遠いと聞く。 見れば大して荷物も持っていない様子だが一人でどうやって来たんだ?」
「どう、って言われても・・・。 普通に歩いて」
「いや、歩いてって言われても・・・」
「あー・・・。 たまには走って?」
「そ、そうか」
何だかよく分からないが凄そうだということは分かった。 もしアシュリーが一人で人間の街まで行けと言われてもとても行けるとは思えない。
なのに目の前を歩く飄々とした男は一人で歩いてきたというのだ。
―――こんな感じでも勇者っていうことか。
―――思っている以上に実力者なのかもな・・・。
「っと、大体一周した感じか。 嫌な予感はするけど魔王城へ戻ってみる?」
「そうするか。 嫌な予感っていうか、まず間違いなく議論が空回りしているばかりだと思うけどな」
こうして二人は魔王城へ戻ることになった。 そして二人の予想通りまだ議論は続いていた。
―――予想通りとはいえ、目の当たりにするとドッと疲れるな。
何故こうまで意見がまとまらなかったのかというと、アシュリーがいない状態で多数決を行うと不公平だということになり決をとることができなかったらしい。
―――俺抜きで49人。
―――半々で分かれることがなくなるから答えが必ず出るということをコイツらは知らないのか!
「アシュリー! 何をしていたんだ、お前がいないと多数決ができないじゃないか!!」
―――俺がいたら半々になって決まらないだけだろ。
―――もしかして、本当は多数決が決まらないことを望んでいるんじゃないだろうな?
「それでは改めて多数決を開始する!」
議論の内容を聞き結局意見は見事に真っ二つとなり議論は初めからやり直しになった。
「あー、もういい!! 本当に進展しないんだからッ!!」
そんな状況を指を咥えて見ているわけもなく、エヴァンはアシュリーに牢屋までの道を案内させることにしたのだ。
―――・・・エヴァンも自ら牢屋へ入りたいだなんて本当によく分からない奴。
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