龍神は愛する者のために命を賭す(改稿版)

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「それで、私は花嫁としてこれから何をすればいいのですか?」  婚礼の儀を終え落ち着きを取り戻した私は、覚悟を持って龍神に尋ねた。  瞼は重いし、声は枯れているし、みっともない顔をしていることはわかっているが、何も持たない私にできることは真正面から向き合うことだけだ。 「何も」 「え……?」  けれど、龍神の短い返答にさっそく出鼻を挫かれた。 「桜と橘には、お前の部屋を用意するように言ってある。自室に下がって休むがいい。これからのことは明日話せばいいだろう」 「でも……」  ここにも日没という概念はあるらしく、開け放たれた窓からはオレンジ色の光が差し込んでいる。やがて陽の光は赤く色づき、夜の訪れを告げるのだろう。 「だが、そうだな。人間達の前に出向いて少し疲れた。膝を貸せ」 「え、……はぁ」  神様に膝を貸すなんて恐れ多くて仕方がないが、自分から迫ったのだからそんな理由で断ることはできない。指図された通り座り直すと、龍神は何の躊躇(ためら)いもなく私に頭を預けた。  気難しそうな雰囲気を持っているが、思いのほか気安い。情に厚いところも含めて、彼はなんだか人間くさかった。  膝枕を要求したのも、空回りしてして肩を落とした私に対する配慮だろう。 「首痛くないですか?」 「悪くない」  龍神は言葉通りの表情を浮かべていた。ほっとすると同時に、急に恥ずかしくなって天井を見上げた。  目を閉じているから正気を保てているが、間近で見る彼の顔は本当に綺麗で心臓に悪い。  無防備に横たわる龍神の姿に、彼のことを教えてくれたキオの姿が思い浮かぶ。キオは「人を作った神は疲れて眠りについた」と言っていた。  下界に降りて、私を連れてきて、足の怪我を治し、婚礼の儀を行った。彼にとって一番負担になったのはどれだったのだろう。  生贄を受け取っていないのだから、彼にとってはただ働きのような状況だ。自分のことに必死で気付かなかったけれど、桜と橘が言うように龍神は神として異常にやさしい。 「ありがとうございます。龍神様」  少しでも龍神が癒されますようにと願いながら、私は彼の髪を撫でた。
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