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龍神との暮らしは、想像していたよりもずっと楽しかった。桜と橘はこの世界と神々のことを教えてくれ、龍神は私に負荷のない範囲で神として為すべきことを教えてくれた。
竜巻は龍神が踊る姿であり、虹は雨に濡れた龍の鱗が太陽の光に反射してできるものだと知った。龍神には百年早いと鼻で笑われたけれど、神力が高まればいつか私も同じことができるようになるらしい。
「いいですか、みのり様。神の力の源は信仰です。その多くは人間に依りますが、木々や動物たち、すべての命ある者たちの思いが神力となります」
どうしたらもっと早く龍神の役に立てるようになるか、そう尋ねた私に桜はいつになく真剣な顔で語った。
「みのり様が今ここでどんなに焦ったとしても、それで神力が上がるなんてことはないのです」
やんわりとした桜の言葉を、橘が後から補足する。無駄な努力はするなと言われたようで、私はほんの少しだけ意地になった。
「だったら、どうしてほかの神々は地震を起こしたり船を沈めたりするの?」
「……その話、よく覚えておいででしたね。
思いは敬いだけはありません。畏れもまた強い思いなのです」
「確かに、そうだよね」
こうして神が実在し人々の前に姿を現す世界であっても、常に思われることは簡単ではないのかもしれない。あんなに信心深い村であっても、神のもたらす豊かさを当たり前のものと捉え、いざという時のための備えなど考えていなかった。彼らの信仰心は、形骸化していたのかもしれない。
敬われ続けることより、畏れられることの方が容易で効果的だ。
「だけど、龍神様はそんなことは望んでいない」
「もちろんです」
橘は満面の笑みを浮かべ頷いた。
もしかして二人は、私が近道をして、そういう神になることを危惧していたのだろうか。だとしたら、取り越し苦労でしかない。二人には負けるかもしれないが、私も龍神様を尊敬しているのだから。
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