龍神は愛する者のために命を賭す(改稿版)

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 満月の夜を超えて、私達の関係は以前よりも深まっていた。  燃えるような恋ではないけれど、互いを想い合う愛情がそこにあった。私達が二人で過ごす時間が増え、桜と橘が遠慮する時間が増えた。  元いた世界の記憶はほとんどが失われてしまったけれど、それでも今が一番幸せなのだと自信を持って言えた。  けれど、その幸せな時間は長くは続かなかった。月日が経つごとに龍神の力が衰え、自室に籠る時間が増えた。 「私にできることはないのですか?」  何度尋ねても「お前にできることなど何もない」と龍神は首を振った。 「私を食べてください」  そう願い出ても「俺は約束を違えるようなことはしない」と龍神は私を突き放した。  龍神は衰弱の原因を知っている。けれど、絶対にそれを教えてくれようとはしなかった。  ここに来て泣いたのはあの日だけだったが、自分の無力さに打ちのめされ、とうとう堪えきれずに私は泣いた。龍神を心配させるだけだとわかっていても、子どものように泣き喚いた。  すると、龍神と同じように弱弱しくなった桜が私の手を握った。 「みのり様、どうか……」 「だめよ、桜」  橘はすぐに桜を(いさ)め言葉を遮ったが、彼女の手もまた私の手に添えられた。 「橘、もう耐えられない。このままでは龍神様が消えてしまう」 「桜!」 「あなたたちはこうなった理由も、解決方法も知っているのね?」  問い詰めると、二人はいつものように顔を見合わせることはしなかった。各々の意思でゆっくり頷く。二人の目には命に背いても主を救いたいという決意が表れていた。 「龍神様は、みのり様を苦しめた連中のために雨を降らせたくないと」 「まさか、あれから村には一滴も雨が降っていないの?」 「かろうじて命を繋げる程度は降っています。けれど、村は以前のように豊かではなくなりました」 「そのせいで、村人達は龍神様のことを信じなくなったのです」
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