龍神は愛する者のために命を賭す(改稿版)

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「龍神様!」  私は二人を引き連れて、龍神様の部屋へ駆け込んだ。 「どうか雨を降らせてください」  頭を下げる私よりも、後ろに控える桜と橘に龍神は厳しい視線を向けた。 「桜、橘。お前ら……」 「二人を責めないでください!  それよりも、どうか雨を降らせてください。私のことなんか、どうでもいいんです。私はあなたのことが何より大事なんです」 「断る」 「どうして⁉」 「今雨を降らせたら、これまでの生贄たちはどうなる?  俺は雨が降らないようにしているのではない。元々あの土地は俺の加護がなければ生きていけるような場所ではないのだ。それだけだ」 「村人達は私が生きていることを知らないじゃないですか! 生贄の命は捧げられたものと思っている。  だから、村人達はこの日照りを龍神様の怒りとは考えず、龍神様自体を疑っている。誤解を解かないと!」 「嫌なものは嫌だ」  龍神はなけなしの力で風を起こし、私を部屋から追い出した。神力で襖が固く閉じられた時、苦しげに顔を歪める龍神の体の一部が透けていた。 「龍神様!」  何度も叫ぶ私の背後で、桜と橘は力なく項垂(うなだ)れた。二人の体も透けている。何とか繋ぎ止めようと手を伸ばしたが、私の手は二人に触れることができなかった。  ふと、くっきりと見える自分の手に力を込めた。 「桜、橘。龍神様もあなた達も弱っているのに、どうして私は無事なの?」 「それは……」  二人は無言のまま互いに疑問をぶつけあい、一つの結論を出した。
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