胸の中のメトロノーム

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胸の中のメトロノーム

薔薇の咲き誇る庭園で とあるお姫様は恋に落ちました お相手は それはそれは素敵な青年で その日から何も手につかずに 彼のことばかり考える日々 蝶よ花よと育てられ 一度たりとも 失敗しなかったお姫様は 想い募るあまり いつも上の空 失敗を繰り返す始末 ぎこちない挙動に 皆が心配をせずにいられません 見かねた王様は 青年をお城に呼び寄せ 仕えの者として お姫様にあてがいます その日から お姫様は落ち着くどころか さらに失敗してばかり 胸の中のメトロノームが 早くなったり 止まりそうになったり 青年を想うほど 自分の内側が乱れてしまいます それが恋だと教えられたとき お姫様は黙考しました いくつもの試練がありながら 気持ちを叶えるために 何をしたらよいのかしら 華やかな演劇にはならず 恋とは 裸の心のぶつかり合いです 宝石も権力も意味がなく どれだけ想いを尽くせるか すべて捨てても ただ愛されたい乙女心は 貴人も賤民(せんみん)も 等しく持つ純なものでした 自らの服を脱ぎ捨て 一人の少女が恋を遂げるまで 胸の中のメトロノームは それそのものが音楽を奏でます これは一つの国で 語り継がれることになる御伽話(おとぎばなし) どんな波乱を乗り越えるのか 当の本人たちは このとき知る(よし)もありません けれど壮大な恋の物語は 常に誰もが夢見るもの 永劫に乙女とは 貴賎(きせん)によらず 恋に生きるものかもしれません
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