理想の世界への誘い

2/10
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 革靴の(かかと)を引きずるようにして安井はマンションのエントランスに立った。  壁に備えつけられたステンレスのポストにチラシが入っている。チラシはすべてのポストに放り込まれていた。  抜き取って見ると『あなたにだけ朗報』と赤い字の見出しが目に飛び込む。 あなたにだけ、そう書いてあるのに、すべてのポストに入っている。  どこがあなたにだけなのか。  思わずツッコむ。  それでいて気になった。チラシにはこう書かれてあった。 『あなたの胸の奥に眠る理想の世界に行ってみませんか。当店では、他にはない装置を使い、あなたの中に眠る理想の世界を掘り起こし、体験できるサービスを提供しています。さあ、このチラシを見ているあなた! あなたのお越しを待っています』  自分にとって理想の世界とはなんだろうか。そもそも理想の世界を持っているのか。あるなら見てみたい。  そうだ。理想の世界とやらに行ってみようじゃないか。  安井はチラシを握りしめると駆け出した。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!