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革靴の踵を引きずるようにして安井はマンションのエントランスに立った。
壁に備えつけられたステンレスのポストにチラシが入っている。チラシはすべてのポストに放り込まれていた。
抜き取って見ると『あなたにだけ朗報』と赤い字の見出しが目に飛び込む。
あなたにだけ、そう書いてあるのに、すべてのポストに入っている。
どこがあなたにだけなのか。
思わずツッコむ。
それでいて気になった。チラシにはこう書かれてあった。
『あなたの胸の奥に眠る理想の世界に行ってみませんか。当店では、他にはない装置を使い、あなたの中に眠る理想の世界を掘り起こし、体験できるサービスを提供しています。さあ、このチラシを見ているあなた! あなたのお越しを待っています』
自分にとって理想の世界とはなんだろうか。そもそも理想の世界を持っているのか。あるなら見てみたい。
そうだ。理想の世界とやらに行ってみようじゃないか。
安井はチラシを握りしめると駆け出した。
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